2026年02月03日
探偵業務と法令順守~実際にあった事例の検討~(令和8年2月3日時点の法令及び裁判例です。)
1 探偵業の業務の適正化に関する法律(以下「法」と言います。)
(1) 目的
探偵業について必要な規制を定めることにより、その業務の運営の適正を図り、もって個人の権利利益の保護に資することを目的としています(法1条)。
(2) 探偵業務とは?
「探偵業務」とは、他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう(法2条1項)。
(3) 探偵業とは?
探偵業務を行う営業を言います(法2条2項)。但し、専ら、放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道(不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせることをいい、これに基づいて意見又は見解を述べることを含む。以下同じ。)を業として行う個人を含む。)の依頼を受けて、その報道の用に供する目的で行われるものを除きます(同項但書)。
(4) 公安委員会との関係
公安委員会は、探偵業者等がこの法律又は探偵業務に関し他の法令の規定に違反した場合において、探偵業の業務の適正な運営が害されるおそれがあると認められるときは、当該探偵業者に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができます(法14条)。
また、公安委員会は、探偵業者等がこの法律若しくは探偵業務に関し他の法令の規定に違反した場合において探偵業の業務の適正な運営が著しく害されるおそれがあると認められるとき、又は前条の規定による指示に違反したときは、当該探偵業者に対し、当該営業所における探偵業について、六月以内の期間を定めて、その全部又は一部の停止を命ずることができます(法15条1項)。
法15条1項に反した場合は、「一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。」(法17条)として刑事罰と「最近五年間に第十五条の規定による処分に違反した者」(法3条3号)として探偵業を営んではならないとして欠格事由に該当します。
(5) 法令順守重要性
以上のように探偵業の業務の適正化に関する法律が施行されてからますます法令順守は重要になっています。次に、実際に裁判で争われて探偵業務の遂行が違法とされた民事事件と刑事事件を解説します。
2 令和6年9月13日福島地裁いわき支部判決(ウエストロー文献番号2024WLJPCA09136002)
(1) 事案の概要
探偵会社である被告は、原告に対する調査のため、原告が使用する車両(以下「原告車」という。)にGPS装置(以下「本件装置」という。)を令和5年5月29日から同年7月17日まで取り付けた。被告は、その後、原告車に本件装置を取り付け、原告車の位置情報を取得して調査活動に利用した。なお、その位置情報は公道上及び原告車が進入可能な、一般人の立入りが可能な場所に限定して利用していた。本件は、原告が、被告に対し、被告の上記行為について、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料等合計117万2600円及びこれに対する不法行為日(本件装置が取り付けられたと原告が主張する日)である令和5年5月29日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案で裁判所が33万円の損害賠償責任を認めた。
(2) 争点
被告の行為が原告のプライバシー権を違法に侵害したか。
(3) 当事者の主張
ア 原告
被告は、令和5年5月29日から同年7月17日までの間に、原告、原告の両親及び原告の元配偶者が日常的に使用する原告車に、同人らの行動を追尾するという不法な目的で、原告の許可なく本件装置を取り付け、原告車が移動した経路等の位置情報を取得し、その情報を原告の許可なく、被告の依頼者に提供した。被告は、これらの不法行為により、原告のプライバシー権を違法に侵害した。
イ 被告
探偵業の業務の適正化に関する法律の規定に照らし、探偵業者が、特定人の所在又は行動についての情報を調査収集することは、法令上予定されており、プライバシー権を侵害したとしても、違法とはならない。被告は、探偵業務の一環として本件装置を原告車に取り付け、原告車の位置情報という特定人の所在又は行動についての情報を調査収集したにすぎないし、被告は、限定的な位置情報(公道上及び原告車が進入可能な、一般人の立入りが可能な場所における原告車の位置情報)を取得して利用していたにすぎず、プライバシー権侵害の程度は軽微であるから、被告の行為に違法性はない。
(4) 裁判所の判断
ア 一般に、自己の位置情報や移動履歴は、他者にみだりに開示されたくない個人情報といえるから、プライバシーにかかわる情報といえるところ、被告が、原告が使用する原告車の位置情報等から推測される原告自身の位置情報等を常時確認できる状態に置き、上記のとおり実際に確認し、その情報を利用して得た調査結果を被告の依頼者に提供した行為は、原告のプライバシー権を違法に侵害する行為というべきである。
イ 被告は、探偵業者が、特定人の所在又は行動についての情報を調査収集することは、法令上予定されており、また、本件のプライバシー権侵害の程度は軽微であるから、被告の行為に違法性はないなどと主張する。しかし、被告の行為が探偵業務という正当な目的のために行われたものであるとしても、上記のとおり、個人の位置情報や移動履歴を常時確認することができる装置を原告車に取り付け、その情報を取得する行為は、探偵業務の調査方法として相当でなく、違法であるというべきである。
ウ 被告が本件装置から情報を取得していたのが、限定的な方法によるもののみであったとしても、本件装置により原告の位置情報を常時監視し、一定のタイミングで原告の位置情報を取得したものであって、必ずしもプライバシー権侵害の程度が軽微であったとはいえない。
(5) プライバシー権の侵害等
探偵業務において、プライバシー権と衝突することは多々あるかと思います。GPS等常時プライバシー権を侵害する方法などは裁判例のとおり違法となる可能性が高いので注意が必要です。
同様の裁判例は、令和6年3月22日旭川地方裁判所の判決においても22万円の損害賠償が探偵業者に認められています(ウエストロー文献番号 2024WLJPCA03226007)。
当該裁判例も車の位置情報を「一般に、自己の位置情報や移動履歴は、他者にみだりに開示されたくない個人情報といえるからプライバシーにかかわる情報」としてプライバシー権の侵害を認めました。
探偵業の業務の適正化に関する法律との関係で探偵業者の不貞行為の調査目的は正当と評価していますが、「本件機器を原告らの使用車両に設置して、これにより位置情報及び移動履歴を取得するなどという本件各行為は、その調査方法として相当性を欠くものであったと評価せざるを得ず」として手段を違法としています。
(注意)
●民法(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
●憲法第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
→プライバシー権は、憲法13条を根拠として判例で確立された個人の権利です。
3 令和7年3月11日京都地方裁判所判決(TKCローライブラリー文
献番号z18817009-00-072252674)
(1) 事案の概要
被告人は、探偵業の一環として被害者の名前や居室番号、同居室の位置を調査する目的で、被害者の居住するマンションの1階出入口ドア(施錠なし)付近にある集合ポストから、投函物である被害者の氏名及び居室番号等が記載された1枚の紙片(「2023年10月度管理費など・水道料ご請求書兼水道使用料のご案内」と題するもの)を取り出し、被害者の名前等を記録するためスマートフォンで本件書面撮影した後、本件書面を上記ポストに戻した(なお、邸宅侵入は別途罪となる)。
本件につき、窃盗罪で起訴された被告人は、同罪の成立を否定し、弁護人は被告人には同罪の故意も不法力の意思もなく無罪である、仮に不法領得の意思っがあったとしても、財物を自己の占有に移転しておらず、未遂にとどまると主張した。
(注意)(窃盗)第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
(2) 判決の要旨
ア 「ポストの構造上、投函された書面は居住者以外の者が取り出すことが予定されておらず、被告人はその構造を認識しながら、ポストのフラットに手を入れて、ポストの中から、本件書面を抜き取ったものであるから、他人の占有する財物を占有者の意思に反してその占有を侵害する意思があったことは明らかである」として「窃取」の故意を認めた。
イ 「被害者の氏名や居室番号等の個人情報が記載された本件書面の記載内容は、秘密性、有用性ないし経済的価値を有しており、被告人はこれを取得、利用する意思があった」と認定した。
そして「個人情報は他者に共有されないことでその価値を有するところ、これを第三者が取得・利用すれば権利者の排他的利用が阻害され、その価値を大きく損なうのであって、これが権利者の意思に反することはあきらかで」あること、「本件書面の記載内容を撮影して取得するのであれば、被告人はその経済的価値を取得・利用することが可能となる効果を有し、本件書面の権利者による排他的使用は阻害される」のであって「被告人は前記のような効果を得る目的でポストに手を差し入れて本件書面を抜き取ったものであるから、権利者を排除して、本件書面をその経済的用法に従い利用する意思があったと認められる」として不法領得の意思を認めた。
ウ 「本件書面が一枚の紙片であることも考慮すると、ポストから投函物を取り出せば、被告人が最終的に本件書面を取得する蓋然性が飛躍的に増大するから、自己の支配下に置いたといえる」として窃盗罪の既遂を認めた。
(3) 評価
情報のみであれば窃盗罪には該当しません。情報自体は有体物ではないからです。しかし、情報が記載されていた紙片は有体物であるのでその紙片は窃盗罪の財物に該当する点は従来の判例を踏襲しています。当該裁判例は、今までの情報のデータが記載された紙片の裁判例と比較すると、情報の対象となった内容が異なります。
従来は会社の機密情報等本来排他的独占的に管理された情報であるのに対して、本件は個人情報(名前・住所)であり、今までの裁判例からしても機密性は格段に低い点に特徴がある。そのため、刑法学者の中では破棄されるべきではないかの論評もあります。
ただ、本件裁判例が出たことから、ポストから取り出して写真を撮る行為が窃盗罪として法律違反とされる危険がある点に注視する必要があります。